先日、グラカン納品のためにグリダニアにいた時のこと。
鞄の整理をしながら、補給担当官に不要な装備を押し付けていると、珍しくTell(個別チャット)の通知音が鳴った。
C.D >>「WAIT」
流暢な英語
……ん? なんだろう。
僕はリアルでも、なぜか知らない人に呼び止められることが間々ある。リュックのチャックが全開だったり、傘を忘れて雨に濡れていたり、会計だけ済ませて商品を忘れていたり。親切な人に助けられることの多い僕だが、それでもやはり、突然の声かけには少しばかり身構えてしまう。
C.D >>「holy thats a deep cut reference」
エオルゼアでも、いつの間にか何かやらかしていただろうか。声を掛けられた。
とりあえず、困った時の「定型文」だ。タブ変換は偉大である。

Gyuma >> 【私は英語が話せません】
C.D >> ごめん. 翻訳使ったけど、あなたのコスチュームすごくいいと思う!メタルギアのだよね?
C.D >> 【許してください】
メタルギア?
僕が着ているのはPvPシリーズ5の報酬装備だ。確かにタクティカルな見た目ではあるけれど、メタルギアにこんなキャラいたっけ?
まあいい、褒められているのは確かだ。
Gyuma >> 【クリスタルコンフリクト】【装備適正】 PvP series 5
C.D >> 私は日本語が話せません
Gyuma >> np. im happy tell me(問題ないよ、話しかけてくれて嬉しい)
C.D >> 【母国語は何ですか?】
おっと、僕の流暢な英語のせいで、日本語ネイティブじゃないと思われたか。
Gyuma >> 【日本語】
C.D >> すごくかっこいい!

ははーん、なるほど。
人事担当官と補給担当官の視線を感じる。
どうやら僕の格好良さは、言語の壁を超えて漏れ出してしまったらしい。
Gyuma >> 【少しなら理解できます。】eng
C.D >> u look good!!! very nice!!!
Gyuma >> thanks!
C.D >> metal gear?
Gyuma >> fun
……嘘はついていない。メタルギアはプレイしたことがあるし、面白い(fun)のは事実だ。
装備がメタルギアか?という問いへの答えになっていない気もするが、まあいい。
C.D >> haha 翻訳使ってるけど大丈夫?
Gyuma >> ok! すごい!
C.D >> コスチューム素敵ですね!そのキャラクター久しぶりに見ました。ああ~懐かしい!
Gyuma >> お気に入り! your look like Raiden
Gyuma >> 素晴らしいチョイスです。
やべえなんか翻訳アプリっぽく喋りだしちゃった。
10年プレイヤーの”プライド”

C.D >> あ~雷電? ありがとう!私も雷電好きだよ、はは
Gyuma >> 僕もメタルギアプレイしてたんだ 今はFFだけどね
C.D >> 僕も!mee too! 最近FFを始めたばかりです。 Ni sh=kan mae
C.D >> FFどれくらいやってるの?
Gyuma >> about 10 year…?
C.D >> えっ!?10年!?本当に?

わらけすぎて誤爆してる…!
画面の向こうで彼が笑いを噴き出す様子が目に浮かぶ。
ふふん。そうだろう、そうだろう。10年だぞ。
歴戦の英雄としての威厳を見せる時が来た。僕はキーボードに手を走らせる。
「新生エオルゼア(A Realm Reborn)からのスタートだよ」
Gyuma >> A realm reborn start
「Start」ってなんだ。
ネイティブもびっくりの直訳だとおもうかもしれないが、これが大都会トンベリで揉まれたレジェンドの実力だ。
「のんびりやってますわ~」と余裕を見ておこう、間髪入れずに追撃だ。
Gyuma >> leisurely play
これでは「のんびり遊べ」と命令しているようにも、「優雅な遊び」と謎の自己紹介をしているようにも取れるのではないかと記事を書く今になってようやく考えがおよぶ。
エオルゼア、大都会トンベリ鯖で揉まれて10年。
英語力だけが「新生」のまま止まっている気がする。
言葉の壁を越えたBOSS
しかし、彼はそんな僕のポンコツ英語も意に介さず、会話を続けてくれた。
C.D >> ARRをやっと終わって、今Heavenswardの途中だよ。
Gyuma >> いいね。もっと楽しくなると思うよ。
どうやら彼は、FF14を始めてまだ2週間、新生エオルゼア(ARR)を終えて蒼天(Heavensward)に入ったばかりのようだ。
「大きな虫のボス、剣たくさん持ってるやつ倒したよ!」と興奮気味に話す彼。
ラーヴァナのことだろう。
Gyuma >> yes ravana! 懐かしいな~やられまくったよ
画面の向こうから、冒険が楽しくて仕方がないという熱量が伝わってくる。
こういう時、少しばかり先輩である自分を誇らしく思う。ギミック攻略の楽しさを共有できるのは、FF14の醍醐味だ。
C.D >> ごめんね、今からお昼ご飯食べに行かないと
Gyuma >> ok ok
C.D >> フレンドリストに追加してもいいですか?
Gyuma >> yes!
愚問だ。迷いなく画面越しににやりと笑みを返しながらタイピングした。
C.D >> ありがとう、ボス!またね!
「ボス(Boss)」!
見ず知らずの僕を、装備の雰囲気だけでボスと呼んでくれる彼。
気分が良くなった僕は、去り際に精一杯の「粋な返し」をすることにした。
Gyuma >> こちらこそ!またね! and welcome! Newbee!
彼は嬉しそうに2、3度ぴょんぴょんとジャンプして、ログアウトしていった。
ようこそ新人!
観光地で写真を構える人を見て、撮りましょうか?と自ら声をかけてしまう時のような、自分もこの場所を楽しんでいるからぜひ楽しんで欲しいというお節介のような高揚感。
これだから多言語が飛び交う大都会、トンベリサーバーはやめられない。
飛び去ったハチ
一息ついて、僕はふと考えた。
「Newbee」。ニュアンスだけで使ったけど、Rookieの方が良かったかな?
念のため、Google先生に聞いてみるか。
検索窓に打ち込む。『新人 英語』。
Newcomer Rookie Newbie
あ~、Newcomer でもいいのか。
……ん?
Newbie
さっきの僕のチャットログを見る。
Gyuma >> …and welcome! Newbee!
New”bee”
Bee(蜂)。

みんな~! ハート連打の準備はいいかぁ!?
いや! Newbieじゃん!
ハート連打さすな! Noooooo!!! Bee!!!
彼が最後にぴょんぴょん跳ねていたのは、嬉しかったからじゃない。(それもあるかも知れないけれど…)
蜂だから飛んでたんだ…!
顔から火が出る音がした。
いや、顔面を蜂に刺されたみたいに僕の顔は赤く大きく腫れあがっていただろう。僕は彼を「新人さん」と呼んだつもりで、「ようこそ! 新しいハチさん!」と呼びかけていたのだ。
彼のユーモアセンスと適応能力は凄まじい。むしろ僕が彼をボスと呼びたい…。
僕のヒカセンとして積み上げてきたプライドがグリダニアの空にブンブンと音を立てて飛んで行った気がした。
人見知りの僕が見つけた トンベリの温度
楽しかった。
猛烈な恥ずかしさが僕を刺したけれど、心をめくって覗いてみると僕は確かにこの状況を楽しんでいた。”人見知りな僕が”だ。リアルタイムでのコミュニケーションが便利なので、昨今はどうしてもボイスチャットを使いがちだ。(もちろんそれが悪いと言いたいのではない。)
人見知りにはそもそも人と会話するという行為のハードルが高い。
それでも、人見知りで女々しく拙い英語力しかない僕でもチャットであれば一応は何か言える。
言葉が通じなくても、誤爆したとしても、お互いが耳を傾けたい、理解したいという気持ちがあれば、心の距離みたいなものは縮まるんだと体感した出来事だった。僕の持っていない人間力のようなものを彼は持っていて、その彼の人間力のお陰で僕は温かく楽しい気持ちになれた。
この記事を書く今、客観的に見ても拙い英語力というよりは拙いコミュニケーション能力と言った方がしっくりくる。でもきっと彼はそんなこと気にしないだろう。
案外コミュニケーションが苦手だと思っているのは本人だけなのではないだろうか。
そして拙いながらも、たとえ「ハチ」と呼び間違えたとしても、苦手ながらもコミュニケーションを図り相手を理解したいという姿勢こそが相手に耳を傾けたいと思わせる【定型文】なのかもしれない。
いつか彼が立派な冒険者になった時、「昔、変なボスにハチ扱いされたよ」と笑ってくれたら、それはそれで本望だ。いや、彼はもう僕なんかよりずっと光の戦士だ。
彼のこれからの冒険が刺激的であることを祈りつつ、僕の恥ずかしい話とともに、エオルゼアでの幕間を記しておきたいと思う。
Yes! There’s always something more!



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