極7.2ブラインド攻略 2 ~Loss of me~

フィクション

「7.2極ブラインド攻略、人が集まればまたやろうかなと思うのですがいかがですか?」

一瞬の動揺が伝わったのか、屋根から地面へぐしゃりと落ちた。

こんな時に限ってシャキるのがFF14だから、返事を打つ前にまずコンテンツの申請を取り下げる。

庭にいるリテイナー達は一瞬チラと僕を見たが、いつもの事といった表情ですぐに顔を向け直す。ゆっくりと戻るHPをなんとなく感じながら、落ちた場所から動くでもなく、返事をするでもなく、少し省みる。

僕はFF14が好きだ。

固定に参加して攻略に乗り出したこともある。
毎回すべてのレイドや極コンテンツをやってきたわけじゃないにせよ、それなりにレイドはやってきたつもりだし、長くプレイもしている。

本当にいろんなことがあったけれど、それでも最近、いや、零式ライトフェザー級のレイドに挫折してからは、終わりのない螺旋階段をゆるやかに落ちていくような不安感を抱えていた。

自分の居場所が急に無くなってしまったかのようでもあって、何かをするときに誰かに声をかけるのも、だいぶ消極的になったように思う。

固定を組んでいたわけではない。それでもFCで何人かのメンバーと半固定みたいに攻略を共にした。誰にも責任も義務もルールもない。自由ではあるが、自由だからこそそれぞれの思いやりによって成り立っていて、周囲のフレンドや高速でクリアしている攻略勢と比べると順調かどうかはわからないけれど、1層2層ともに攻略できて僕なりに活動に満足していた。

誰も何も悪くないし、強いて言うならば皆少しづつ悪かったのかもしれない。

お察しの通り、僕は半固定みたいになったメンバーと通っていたレイド攻略が嫌になってしまった。

3層、ギミックのミスはほとんどなくなって、残るはスキル回しの最適化まできていた。同時に全体でノーデスでならクリアできそうだなとも思い始めていた。結局スキルの最適化はしなかった。週制限の装備が揃えば、時間が解決してくれるだろうと思っていたし、そもそもスキル回しだってできていないわけじゃない。何よりまさか自分が挫折するなんて思ってもいなかった。

小さな出来事をきっかけにバラバラになるメンバーを目の前に僕は何もできなかった。

それぞれの事情や思いを聞くことだってできたはずだし、自分の思いを話してみたって良かったはずだ。そもそも僕が声を上げて、皆を繋いで攻略にだっていけたはずだ。小さな出来事が生んだ不信感がブロートを喰らった時のように僕の足を重くさせ妨害した。

筈、はず、ハズ…。

そんななかでも、誰に何を言われようとも、自分が歩み寄れるだけのことはしたし、それぞれが多少はあれど譲歩と嫌な思いをしただろう。

どんな事でも大抵のことは解決できると思っていた。でも、できなかった。
僕をこのFCに誘ってくれた人はずいぶん前にログインしなくなってしまった。それでも僕がつらいときに、その人とその仲間は僕に居場所を与えてくれた。大切な場所を大切にするより、自分が少しでも傷つかない選択をしてしまった。

こんなことで誰も僕を責めはしない。
分かってはいても、僕の持っていた空っぽの自信に影を落とすのには十分だった。

小さな棘が刺さっただけだった僕の心はひび割れて、やがて砕けてしまった。

ここまできたのだから、キリのいいところくらいまで、せめて3層クリアくらいまではがんばろう。
もう少しじゃないか。

そう自分を励ましても、もう駄目だった。

すみません やっぱりもういけないです

8月の暑い盛り。そう絞り出して、僕はレイドから逃げ、仲間と向き合うことからも逃げ、好きなFFから距離を置いた。

装備は取れれば嬉しいけどそこは大きくない。皆で喜びを共有できればそれでよかったはずだ。

この状況は、もう皆で喜びを共有できそうにはない?

苦痛を感じながら攻略するの?

どうすればよかったの?

終わりのない思考の螺旋が延々と溢れる。

豆腐メンタルというか、僕は割とネガティブ思考なので悪い記憶は結構忘れないし、反芻思考してそのたびに気分が落ち込む。
今回も自分にさえ向き合うこともできなかった。
今更ログを読み返してみても、熱く焼かれた石を抱えているように胸が熱く苦しくなる。

画面の向こうの彼は強くあるのに、僕はいつまでも弱いままみたいだ。

数少ない僕の友人たちはこんな僕を気にかけてくれたし、特別言葉にはしないけれど、時折IDやコンテンツ攻略に誘ってくれた。そのおかげで少しづつログインの時間も戻っていった。

ブラインド攻略の声掛けも嬉しい。けど、どうしたらいいのだろう。

返事も忘れて深く思考していた。

僕は感情の処理が苦手だ。会話で感情や思考を伝えるのは特に苦手で、まずうまく言葉にできない。次に何から伝えればいいかわからなくなってしまう。そして言葉にできて聞いてもらったところで、そういうことじゃないんだよなということが結構ある。そんなことを繰り返していくうちに、結局相手にも周囲にも分かってもらえないだろうし、そもそもそこまで必死にやりとりしてまで分かってもらわなくてもいいと思ってしまうので勝手に距離を取ってしまう。
周りから見たらきっと何かわからないけど、一緒に遊ばなくなったと思わせてしまっていただろう。

今回のレイドを今振り返っても、そのときの自分の最善だったと思う。反面、どこか不完全燃焼な気持ちを誰かにぶつけていた部分があったのかもしれないとも思える。

恥ずべきことだ。

どんな形であれ、自覚がないにせよ、自分を慮ってくれた人に足を向けて寝るべきではなかった。
どんな人にも、少なくとも敬意と感謝を持って接するべきだった。

僕はもう、誰かを恨んで生きないと誓ったはずだ。
誰かのためじゃなく、自分のために。

誰かのために生きる貴女とは、真逆だ。

こんな気持ちを抱えたまま攻略に乗り出すのは、周りにもきっと迷惑をかけるんだろうな。
人間関係には疲れてしまったのに、僕は昔と変わらず他者との交流とは切っても切り離せないMMORPGを遊ぶ。

今まで体験した印象的で素晴らしい思い出は、いつも誰かと何かをしたことばかり。
それが成功でも、失敗でも、信頼できる人との思い出は今も心に残ってる。
例えばいつか剣を交えることになったとしても、末に笑ってそんなこともあったと笑い合いたい。

でも

もしまたつらい目にあってしまったら…。

思考の螺旋にいつの間にか嵌っていく。

「もしそうでも、また立ち上がるだけさ。」

屋根から落ちたことも忘れたみたいに、画面の向こうから視線だけ向けてそういわれた気がした。

自分がわからない。でもどうやら僕は悲観デバフをつけられているみたいだ。

僕はどこへいきたいのか。どうなりたいのか。どうありたいのか。

随分と長い間返事をしていなかったのに、うづきさんは急かすでもなく返事を待っていてくれた。

「参加したいです ジョブは空いてるので大丈夫」

何かを求めて、結局攻略へはいくことにした。
この螺旋階段に頂上があるのか、出口があるのかはわからない。
どうあれ、このままではいられない。

長閑とは言い難い春風が吹く頃。
罪悪感と迷いの中で僕はまさに、未体験のコンテンツを未予習で挑むような不安と、少しの期待を綯い交ぜにした気分だった。

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