攻略が始まって、何週かが過ぎても、僕は変わらず木人討滅戦に通っていた。
少し前を向いた僕は、木人を叩く時間が増えた。
ブラインド攻略でギミック練習が十分にできない以上、スキル回しの負荷を下げるしかない。
過去の経験からDPSを急に上げることの難しさは知ってたので、せめてジョブに触れて操作感や基本的なスキル回しは失わない様にしておこうと思い、少しのコンテンツにも取り組む様になった。
それでも4%届かず、木人を割ることができなかった。
最終的に火力不足になる懸念はあったけれど、少し前向きになった僕は、ノーマルクルーザー級とエキルレ参加の声掛けを始めてみることにした。声掛けがなければ装備を集めないメンバーではないし、装備はたぶん僕が一番揃っていないのは理解している。それでも皆が装備を整えやすくなればいいし、なにより、しのださんとみどさんに感化されて、メンバーの人となりを知りたいと思えた。
声掛けで人はあまり集まらなかったけれど、肝心のゼレニア攻略の方は、驚くほど順調に進んでいた。
進行を引っ張ったのはヒーラーの2人。
2人とも今回の攻略で初めて一緒になったメンバーだ。

「あの~、こんなの作ってきたんですけど、見てもらえますか?」
攻略開始前に、そう切り出してギミックを分析したスライドや、ギミックを表に見やすくまとめて共有してくれるのはバリアヒーラー学者を務めるバブさん。
「バブさん、こんなすごいスライド作れるってことはプロの方です?」
「いや~そうじゃないんですけど、こういうの作ってると安心できるので。」
本当に他意のないようにバブさんは答える。

「絵が描けないのがね~」
そして少し残念そうに続けた。
1つのギミックに何枚もスライドを作ってくれるだけでも時間がかかると思われるのに、図だけでなく、誰に何回攻撃がきたとか、技の範囲を表でまとめてくれたりもする。このマイルドな世界観が、ギミックを怖いものから、かわいらしく優しいものに変えてくれることは説明するまでもない。目立つ立ち回りではない。それでも確実に皆を鼓舞してくれる。

バブさんのすごいところは、分析力。
皆なんとなくわかっているけれど、完璧じゃないよなっていうギミックを整理して伝えることで、迷いなくギミックをこなすことができるようになる。聞こえは地味かもしれないけれど、ギミックが複合されるFF14では、基本的なギミックをどれだけに迷いなくこなせるかが非常に重要になる。
ギミック処理能力の底を引き上げることで、序盤は足取りを軽やかに、そして終盤ではメンタルケアの役目も果たしてくれるだろう。後半になって苦手なギミックが複合で出されでもすると、本当に心が折れる。しかしこれがあると、複合のうち1つはできると励みになる。
まさに深謀遠慮であると、僕はひそかに思っている。

ヒーラーの双璧、もう一角を担うのはピュアヒーラー白魔道士のみずきさんだ。
みずきさんの特徴を言葉にすると、コンテンツ攻略の瞬発力が高い。
ギミックを把握してから言葉にして伝えるのが早く、ギミックを見て、分析したことを言葉ですぐに説明できる。そして説明と共有に必要なことは図にもしてくれる。ほとんどLiveで。
「すいません。実は僕、参式わかってないです!」
僕がこれだけしか言ってないのに、僕が何を分かっていて、何を分かっていないかを理解して、僕に必要なことをシンプルに伝えてくれる。
「1つ上の図を見てください。柱は方角を考えずに、自分の背面に下がってくれれば大丈夫ですよ。」
本当に何も問題はなく、なんでもないように淡々と言ってくれるから、僕もなんだそれだけかと安心できてしまうから不思議だ。

これはギミックを見て、じゃあ次はこんな感じでやってみましょうかとサラッと作ってくれた図。
急に個人的なことを言わせてもらうと字がめちゃくちゃ好き。
これ絶対頭の良い人の字。(バカの表現)
筆跡評論家でもある私ぎゅーまに言わせると、MTとD3とSTが好みか。
いやH1もいい。H2,D4もいいな。やっぱりD1,D2も捨てがたい…。
いつのまにか全部良くなっちゃった。
勉強のできる人の字というか、膨大な量の字を書いてきてそれが当たり前になっていて、字が走っているけどバランスが取れている。きっと絵もうまいんだろうと想像を膨らませずにはいられない。
皆それぞれがSSを撮ったり、動画を撮ったり、自分視点で分かったことを説明したり、考察したりしてくれる。これらの情報たちが取れないのは厳しい。だから絶対に情報は必要。
でも、たまに情報が溢れて、じゃあ結局どうしたらいいの?という状況がある。これはこれで難しい。嬉しい悲鳴ではあるのだけど、そんなときに情報を整理して皆が同じ方向を向いて、同じ考えのもとで動けるようにする。それは時に誰かの意見を後回しにしたり、間違いを指摘しないといけないこともある。合理的な判断の下、難しい提案をしなければならないことだってある。
必要なことと皆が理解していても、辛い役回りであるだろう。
「今わかっている限りだと、1人を犠牲にして進む方法がありますね」
合理的だ。
でも、こんなことを言わなければならないのは、どんな気持ちなんだろうか。
蘇生できると分かっていても、気持ちのいいものじゃないことくらいは想像できる。
…。
一瞬、場の空気が重くなる。
「前にブラインド攻略でどうしてもギミックができないときに、蘇生準備して1人を犠牲にして進んだこともあるのでまあ大丈夫ですよ。参考になるかわかりませんが、画像が残ってるか探してみます。」
先ほどとは違う少しの緊張が場を包んで、皆言葉にはしなかったけれど、だれが犠牲になるかを考えていたと思う。そして、役割的には僕が妥当だろうなどこか冷静に考えていた。
「ありました。画像貼りますね。」
みずきさんはそういって、いつものようになんでもないように淡々と言って画像を張った。
※画像の一部を抜粋しています。

「待ってwボスがかわいいw」
「哀愁がw」
「www」
「前の攻略メンバーにもいじられたんですよwスタンプになりましたしw」
今までの空気が嘘みたいに明るくなった。今までの合理的なみずきさんからこんなに味のある絵が出てくるとは思わなかったw
この目を見てほしい。え?ほかに解法あるけど1人倒しちゃっていいんすか?とでも言っているようだし、レイド級ボスのはずなのにかわいさと従順さすら感じる。
そして当然…

スタンプ大人気になりました!
何のボスかはここでは伏せておきますので当ててみてくださいw
この時のギミックはこの絵のおかげで無事に乗り越えることができた。
これはブラインド攻略や、FFだけに限ったことではないと思うけど、メンタルというのは本当に大事だ。この時も、この絵が登場したからといってギミックの解法が挙がったわけじゃない。それでも皆が、楽観的になれた瞬間だと確信している。
二人のヒーラーに励まされて、背中を押された僕は一歩を進む勇気を持つことができた。
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