極7.2ブラインド攻略 6 ~守るべきもの~

フィクション

昔、つらいことに泣く僕に母が教えてくれた。
神様はこの人なら乗り越えられると信じてつらい事や試練を与えてくれると。
でも幼い僕は、いや、今でもたまに思う。
僕にはこんな事耐えられないし、ましてや乗り越えられないから、もう試練なんて与えないでくれと。

これは試練なんだろうか。

FCの庭で僕はそんなことを思い出しながら、ブラインド攻略開始の時間を待っていた。

攻略は、紹介フェーズ、聖護壁、魔法陣展開・二式・三式・四式を比較的安定して攻略できるようになり、五式をダウンしながら抜けて、六式をなんとか見れるところまで来ていた。

順調な攻略とは対照的に僕の心は淀み泡立っていた。

梅雨を置き去りにして、暑さが急に顔を出す。
僕の頭にはレイドや仲間から逃げた記憶がチラと浮かんだ。

僕はぎゅーまで、ぎゅーまは僕だ。
それなのに、PCの画面をたった一枚隔てただけの僕らがあまりにも乖離しすぎているように思えてならなかった。

個性豊かなメンバーが、それぞれに自分のやり方で攻略に貢献する。そんなパーティーの一員になれたことで、僕も何か特別な一人にでもなれたと思った。どう足掻いても逃げられない自分という人間の弱さと、小さな視線にすら怯える自分という現実を突き付けられた。

轟々とファンの回転音を鳴らすPCは、熱を処理できていないのか随分と熱くなるようになった。
そういえばもう五年近く前に買ったものだ。

PTの準備が済み、レディチェックが入る。
なんの確認もせずに条件反射のようにチェックを入れコンテンツへ突入する。

おざなりに攻略をすすめながら、攻略メンバーのことを考える。

二人目の召喚士ソフィアは、この中で一番付き合いが長い。

大学時代の同級生だからだ。

僕の人生において、こんなに長い時間友人として付き合いが続いている人間はそういない。

バカをやってきたし、同じ釜の飯を食うどころではない、布団がないので同じ布団で寝るなんてこともあったくらいだ。(健全)

内向的で悲観的な僕に対して、彼はけっこう社交的で楽観的だ。
人の悪いところであってもそんな部分もあるなと人の性に結構寛容で、人間味を面白いと捉えられる。この人はどこに行っても生きていけるだろうなあというのが僕の偏見だ。

彼がブラインド攻略に参加すると聞いた時、僕は素直に嬉しかった。
リアルと変わらないにせよ、ぎゅーまとしての一面を友に見られる気恥ずかしさはあった。それでも友人がFF14をプレイして、楽しんでもらえるというのは、開発でもないのにどこか誇らしい気持ちになれた。

そんな彼が極ゼレニアブラインド攻略にあたって、珍しく弱気なことを言っていた。

「昨晩、何とか最新のパッチストーリークリアしたけど、極やりきれるか不安…。なんかあのボスクソ難しかった印象。」

「ブラインド攻略だからどうせ誰も何もわからないから気にしなくて良くね」

「まぁ~そうなんだけど、極とかじゃないノーマルなのに、すごい床ペロペロした感じで打ちひしがれたw」

ついに床ペロを使いこなすようになったか。

彼の不安をよそに僕はそんなことを思い、光の戦士としての彼の成長を感じていた。
FF14を純粋に楽しんで欲しかったから、リアフレとはいえ基本的には放っておいて、困ったら助けるという方針で関わっていた。

そして今日まで、彼はFF14を楽しみ強くなった。
同じサークルに所属し、同じ趣味を持っているからわかる。リアルでも、今までそれなりに困難なことを共に乗り越えてきた。そんな彼でも、打ちひしがれることもあるのか。

吟遊詩人を務めるカイゲさんは明るくて前向き。太陽みたいで僕には眩しすぎるくらいだ。

基本配置的にギミック処理で近くになることが多いので、わかることがある。

こんな表現をすると本人は嫌がるかもしれないけれど、コンテンツ攻略における能力があらゆる面で高い。少なくとも僕はそう思っている。

人だから当然間違えることはあるけれど、それでもギミックの理解、考察、自分の考えを言葉にして伝える力、ギミックを理解してから安定してこなす力、皆が静まってしまった時に第一声を発する胆力のようなものもある。あらゆるものが自然に発揮されているように感じる。

それでも何故だか、自己評価が低い。

僕がミスしていてカイゲさんはミスしていないのに先に謝ってくれる。必ず私が悪いと言ってくれる。なんにも悪くないのに。

こんなことを書くのは野暮だけど、それは僕への配慮のようでもあり、過去の苦い経験からくるものであるのかもしれないと勝手に感じ思う。

そんな彼女の懐の広さに甘え、僕は僕で何もないような顔をしているのだから質が悪い。

以前、彼女の部屋の紹介記事を書かせてもらった時には分からなかった。
攻略を共にしていく中で、そんなことを感じると、ああ、だから雨が降っていたのかとどこかで納得し、それでも向こうの窓に差していた晴れ間に、カイゲさんらしさが伺え、ほっこりとする。

太陽の休むところ。あの部屋はたぶんそういう場所だ。

そんなことを勝手に想像していると、2人とも前向きだけど、いつでもどこでも always 前向きなわけじゃないことに気が付いた。きっと何か難しい事や他者と関わるうえで、つらさとか痛みも感じながら学び、そしてそこには工夫や努力があるのかもしれない。なんてことのないギミックをミスし、こっそりと被ダメ上昇デバフを付けながら、そんなことを考えた。

皆、傷付きながら歩いているんだ。

雲が空を覆ってしまうように、つらい事や悲しいことは、理不尽に誰の身にも降りかかり心を覆う。
今はまだ前を向けないかもしれない、FF14でさえ主体性をもって楽しめていないように思う。
それでも僕は、胸を張って歩いて生きていくとまではいかなくても、自分の好きなことや大切にしてきたものは大切にしたい。
つらくても、悲しくても、痛くても、僕はまだ歩いて生きたい。

もう、レイドから、仲間から、自分から逃げてしまった過去を消せはしない。
もしこれが画面の中なら、地面に伏して毀たれても、超える力が発動して、息をするように困難に向かっていける。

でもここはエオルゼアじゃない。僕はそんなに強くない。
心に刺さってしまった小さな棘も、まともに抜けやしない。

でも、それでいい。
弱く臆病で、いつまでも後ろ向きな僕。
できることなら、強くありたかった。でも、そうはいられなかった。
これが僕なんだ。

ハイデリンの言葉が、意味が、今なら少しだけわかる。

これは試練なんだろう。

そう確かに感じる。この試練を乗り越えられるんだろうか。
目の前のゼレニアが、今までになく強く、大きく見える。

自分がどうなりたいのか。まだ輪郭もぼやけてハッキリとしない。
それでも僕の求めているものが、ストレスが全くないとか、楽なことばかりをするってことじゃあないというのが見えた。

前向きな二人のDPSに学び、僕は決意を胸に抱いた。

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