極7.2ブラインド攻略 7 ~独りじゃない~

フィクション

僕が再び決意を胸に抱いてから、数日が経つ。

僕は木人を叩きにヘリテージファウンドへ足を運んでいた。恐怖の視線を浴びてから、それほど長い時間が経っているわけではないのに、随分と久しぶりに木人を叩きに来るように感じる。

放電が懐かしい。エキセントリックな研究者は僕のことを憶えているだろうか。

スキル回しやプレイフィーリングを確認したい。
積み上げるのは時間がかかるのに、失ってしまうのは一瞬。
だけど本当に取り戻したいのは、たぶん自分自身だ。
取り戻せるか。

少しばかり緊張しながら木人を叩き始める。

レイドに挫折し、逃げるように始めたヴァイパー。当時は召喚士だった。

相手から見れば、きっとこれは僕も同じなんだろう。

だけど、人の気も知らないで、色々な人が、勝手なことをして、勝手なことを言ってくれた。

あんまりじゃないか。僕が何か悪い事でもしたのかよ。
騒ぎ立てないで。僕は大丈夫だから。
放っておいてよ。一人で立てるから。

弱いのに強がって。平気なフリをしてた。
心配をさせているのに、そんなもの必要ないと思ってた。

今まで表に出せなかった。
隠していたわけじゃない。
言葉にしたくなかった。
良い人でいたかった。
僕の為に何かをしてくれた仲間を、少しでも悪者にしたくなかった。

僕はこの醜い感情を、少なくとも見ないようにしていた。
それでも僕の心の中に確かにある。

小さな棘から生まれたこの黒い感情を、僕は木人を叩きながら初めてまじまじと見つめた。

悪意を持った人なんて、たぶんいなかった。
皆、それぞれがそれぞれのままいるだけ。
こうある”べき”なんてものはない。
もしあるとすれば、それこそ僕が勝手に仲間や友人はこうあるべきと決めていたんだろう。

攻略メンバーのことは信じてる。
もうこんな感情に恐れなくていい。
でも、絶対に大丈夫なんて、もう言えない。

わかっていても、つらいなあ。自分の弱さを見つめるのは。
まったく。こんなことで涙を流すのかよ。いい年してさ。

決意を抱いてここへきたハズだ。
目の前に立ちはだかる大きな試練を乗り越えるために、必要な気がしたから。

よくやったよ。

そんなに怖いなら、固定なんて組まないでいい…。
泣くほどつらいなら、もう、やめてしまえばいい…。

そこまでして…僕の求めているものは…?

僕の思考が、螺旋に踏み込もうとした。

「7.2極ブラインド攻略、人が集まればまたやろうかなと思うのですがいかがですか?」

ブライド攻略に誘ってくれたうづきさんの声掛けが、不意に頭をよぎる。
本攻略の中で唯一の、僕の挫折してしまった、ライトヘビー級攻略を共にした人物。

彼女は一人でもレイド攻略を続け、踏破した。

本攻略でガンブレイカーを務める彼女は、自分はあまりプレイが上手くないという。

Fall Guysコラボの時に、奈落に真っすぐ突っ込んでいく彼女の姿を見ていると、確かにそういう部分もあるのかもしれないとも思う。

攻略の声掛けを始めたパーティーリーダーであり、皆を取りまとめてくれる。
日程調整やリマインドに加えて、開始時間や終了時間の調整、確認 etc…。人が集まって行動する中で面倒だけど大切なことを、一手に引き受けてくれている。

でも、うづきさんの良いところはそんなところじゃあない。

うづきさんの良いところは、自分のやりたいと思ったことを、できるまでやり続けられるところ。

レイド攻略をあきらめた僕を、ブラインド攻略に誘い、僕のことを見棄ててはくれなかった一人。
結局僕は、数ヵ月続いている本攻略も変わることなく挑み続けられている。

感受性が高すぎて、言葉に込められた感情を人より多く受け取っているんだろうなと感じるし、時に不器用で言葉が足りないかもと思う場面があったりもする。
それでも、つらいだろうなという事があっても、諦めないでコツコツと自分にできることを積み重ねていくことができる。

言うなれば”超える力”を持って何事にも挑む姿に、きっと僕は憧れていたんだ。

自信を失ってしまった僕は、誰よりも自身に飢え、超える力を失くしてしまった。

僕に足りないもの。僕の失くしてしまったものは、こんなに近くにあった。
失くしたんじゃあないのかもしれない。たぶん持ち方が、使い方が、間違っていたんだ。

多少嫌な事でも、自分が我慢出来て皆が気持ちよく楽しく過ごせるなら、それでもよかった。
そうやって徐々にひび割れた僕の心は、小さな棘をキッカケに砕けてしまった。

そんなこと、お互い辛いだけ。

自分にとって大切なものや人を信じる。信じたうえで良い意味であてにしない。
今までの僕はきっと、大切なものを信じられずに握りしめて潰していたんだ。

信じて手放す。自分にとって大切なものほど、信じて手渡す。

そのうえでどうなってもいい準備をしておく。

わかってきた。

僕は強くありたかった。
献身的で、仲間の為なら自己犠牲をも厭わない、無垢な人で居たかった。
でももう、きっとそうはいられない。

道を違えてしまったという意味じゃない。
人の為に生きることは、僕にはできなかった。弱い僕には負担が大きすぎる。
少し悲しいけれど、それをただ受け入れるだけ。

自分という人間を理解して、自分の信じた道を進みたい。
自分の良いところも悪いところも受け入れて、自律し理解してもらいたい。

気付けば僕は木人を割って、その場に立ち尽くしていた。

どうやら、刺さった棘は抜けたみたいだ。

こんな小さな棘でも、僕には本当にとてもとても辛いことだったし、実際、孤独や疎外感を感じ恨み、憎しんだりもした。

けど、今では感謝できる。

自分という人間を見直す重大な出来事だったし、今こうして攻略を共にするメンバーに、いや仲間に助けを借りて、成りたい自分が見え、求めていたものがもう手の中にあることを知った。

うづきさんは、なんで僕を攻略に誘ってくれたのかな。
クリアして尋ねてみたい。
どんな理由でも、今なら笑って受け入れられる気がする。

活力を与えてくれた、みどさんとしのださん。

知性で引っ張ってくれた、みづきさんとバブさん。

前向きな姿勢で支えてくれた、カイゲさんにソフィア。

そして、超える力を分けてくれた、うづきさん。

もう、誰かの所為にはしたくない。

初日からゼレニアの策略にハマって無言を貫いていた自分。
ギミックを教えてもらい、動きを解説してもらい、励まされ、支えてもらった。
もらってばかりの僕が、みんなにできることはなんだろうか。

僕は、確かな決意と覚悟を胸に抱き、顔を上げて前を向き、心に超える力を感じながら、再び前に向かって歩き始めた。

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