攻略参加を決めてから何日かが過ぎ、僕は木人討滅戦に足を運んでいた。
メンバーは参加者の協力もあり、それなりに順調に集まったようでチャット上での挨拶は終えていた。
装備は最新のものがなく、殴った木人は10%以上残して割れなかった。
木人を叩くことが久しぶりすぎたのもあったし、正直こんなに残ると思ってなかったのでしっかりとした数字さえ追えていなかった。

考えてみれば食事を作る装備も、装備を作る素材すらない。
それなりにFFから離れていたことをこんなところで実感する。
それでも、初回からガチガチにギミックをこなしていくわけではないという気持ちの余裕のおかげで幾分か心は軽かった。
ゆうきを込めて
攻略初日。僕は念入りにPC周りの動作とFFの設定を確認した。
安物だが頑丈なキーボード。有線接続のヘッドセットとミックスアンプ。少しだけスティックがドリフトするPS5の純正パッドも、操作自体に問題はない。
動作や設定を確認をなぜするかといえば、コンテンツの初日に限って、機材や環境の調子が悪くなることが『稀によくある』からだ。過去に何度か痛い目を見た僕は、ようやくその学びを活かせるようになった。
21:30、「こんばんは~。ぎゅーまです。よろしくおねがいします~。」
通話に参加してすぐに挨拶をした。こういうのは自分からしてしまった方が気が楽だし、第一印象は大事だと僕は思う。皆が集まり早々に挨拶を済ませ、早速攻略に向かう。皆から緊張を感じる。当然だ。話すのは初めてだし、何も知らない相手がほとんどだ。
僕は声色に気を付けながら、せめて聞き取りやすいようにはっきりと喋ろうと心がけていた。
「初回ですし焦らずいきましょう」
僕も緊張していたし、あまり喋る方ではないので、気の利いたことは言えない。
コンテンツを味わい、一つひとつを楽しむためなのか。ここにいるのは味方で心配することなど何もないのだと自分に言い聞かせたかったのか、自分でもわからない。少しの勇気を込めて、そんな言葉を僕は言った。
そんな声掛けのせいか初回とは思えないほどスムーズに攻略は進んだ。もちろんノーミスというわけではないし、所謂紹介フェーズだというのは理解している。
それでも僕が考えるよりずいぶんとスムーズにギミックを見ることができて、皆がそれぞれにギミックの一口目を楽しんでいることが伺えた。勇気を出して発言してよかったと思った。
それからいくらか時間が経って、もう少ししたら今日は時間かなというころ。
「ぎゅーまさん。もしかしたら声、入ってないかもしれないです。」
うづきさんが恐る恐るという感じで僕に言った。
一瞬何を言われているのか理解できなかったけれど、次の瞬間には自分が何かをやらかしているということだけは理解した。マイクのミュートボタンは押していない。通話アプリの反応もある。ならば何故?マイク入力デバイスを確認。

『デバイスがありません』
これだ!
なんで初日の今日に限って抜けてるんだよ! 線は繋がってるのに!
僕は顔から火が出る思いを置き去りにして、急いでデバイスを接続し直した。
「すみません!設定がバカになってたみたいです!」
残酷でありがたい真実を告げられてからここまで1秒かかってないと思う。攻略中の返事や声掛けはおろか、先ほどの僕の勇気を込めた「焦らず行きましょう」という発言もすべて部屋に響く虚しい独り言だったのだ。

やってくれたなゼレニア……!!!
初顔合わせから終盤まで、完全な無言を貫き通した不愛想な彼と僕。
「あ〜、あるあるですね〜」「www」
幸いみんなは笑ってくれたが、ドン引きで言葉にならなかった人もいたかもしれない。この事件のせいで、僕の初日の記憶はすべて飛んだ。ゼレニアは中々の強敵だと痛感した。
背中を押されて
攻略に乗り出してから何日かが過ぎて、何度目かの攻略日。
僕の方は相も変わらず、のっぺりとした日々をすごしていたものの、自分から何かを変えるでもなかった。木人は9%を残して割ることができていない。
「線取ります!」
しのださんの声がフレッシュに響く。
今回のブラインド攻略からご一緒するナイトで、極初挑戦とのことだ。
初めての極をブラインドで。なんて素晴らしい楽しみ方をしているんだろう。
「線取れました!」
皆「ナイス!」
僕は気付けば女々おじから後方腕組みおじへジョブチェンジしていた。
ギミックの1つ1つを味わうように、成功の一つを噛み締めるように、言葉に喜びが感じられる。
そしてそれを共に喜び、背中を支えるように周りが応える。
「ぎゅーまさん!ありがとうございます!」「ぎゅーまさん!すみません!」

ちょっとしたことでもしのださんはよく名前を呼んでくれる。僕だけにじゃなくみんなにそうだ。
名前を呼ばれるって心地いいもんなんだな。そんなことも忘れてしまっていたよ。
「あああああ、線取れませんでした!」
「範囲に巻き込んじゃいました!」
楽しんでる。こんな時期が僕にもあったんだろうか。
FF14は日々新しいコンテンツと新鮮さをくれる。
今までのプレイ時間があるから楽しめることは多いし、過去のFFをプレイしていることで得られる喜びがあるのもFF14の魅力の1つだ。
羨むわけではない。それでも同時に、FF14というコンテンツを真っ白の無垢な状態で楽しむには、少し長くFF14をやりすぎてしまったようにも思う。
「しのだあああ!スタンス入れ忘れてんぞおおお!」
そんな僕の思いを吹き飛ばすように叫んだのは、召喚士のみどさんだ。前回の極攻略からの付き合いで、今回の攻略にしのださんを誘った人物。念のため言っておくと、普段は穏やかで冷静な人である。ただ、こんな野次を飛ばせるほど二人は仲が良いらしい。
「ひいいい、すいません!すいません!」
必死に謝るしのださん。かと思えば、当のみどさんはギミックの処理後に「あれ、みんなどこー?」とちゃんと迷子になってみせたり、ボスの目の前で突然「記念撮影しよ!」とカメラを構え始めたりする。

なんだろうこの末っ子感。しかもゼレニアを撮らんのかい。
それでもギミックで行き詰ったときはひらめきで、皆を助けてくれる。
ブラインド攻略で行き詰った時の閉塞感は、頼んでもいないのにもうこのまま攻略できないのかもしれないと一瞬でも考えてしまう。少しの静寂が場を覆うとホワイトボードにギミックを並べても、情報を取りに行く足でさえ重くさせる。
そんなときでも前を向いて、自分のできることに目を向けることができるのがみどさんで、それは誰もが出来得ることだけど、誰にでもできることではない。
「私PSでホワイトボード見れないんでわかんないんですけど、この感じだとこうだと思います」
見れないのにわかるんかい。
あ、天才肌なのね。
ギミックが進んでは戻り、全滅してはやり直す。無駄にプレイ歴が長いとできて当たり前に思われるし、自分でもそうあるようにどこか必死にプレイをしてしまう。でも思えばこれが普通なんだよな。そんな普通をただ繰り返していく毎に、少しづつ憑き物が落ちていく。
フレッシュなナイトと天才肌の末っ子召喚士の2人に背を押され、僕はすこしだけ前を向けた気がした。



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