幸せの在りか
いつもの散歩道。歩きなれた道。つまらない道。
極ゼレニア攻略を経て、極永遠の闇ブラインド攻略が始まって少しの時間が経っていた。
毎日毎日、自分を見つめ直すために始めた習慣をひたすらに繰り返していく。
時間が足りない。
時間は大切だと誰もが言う。
その通りだ、「当たり前じゃん」と思っていた。
でも本当の意味で理解していなかった。
いつもの散歩道を歩きながら、そんなことを痛感していた。
部屋に戻ると予定の時間より20分程遅れが出ている。
思考に意識を取られすぎて歩行がおろそかになっていたみたいだ。
ディスコードを確認して仲間のまとめてくれた解法を復習していく。
時間が押しているから要点だけに絞る。
ギミックは想像できるか。ギミックに対して自分の動きがイメージできるか。
大丈夫だ。
復習を切り上げて次の習慣へ移る。
習慣が楽しい時期もあった。
最適を模索しては試し、試しては改善する。
学んだことを自分に合わせて、自分にできることをする。
ブラインド攻略でギミックを解くような、裏返しのカードを1枚ずつめくっていくような楽しさがあった。成りたい自分に成るための幸せな時間。
あれ…?でも土台を築くのに精いっぱいで、習慣に忙殺されてる…?
これって、幸せなんだろうか?
時間の価値は
僕が幸せについて疑問を抱いてその答えが出ないままでも、間隔を置きつつ攻略は続いている。
「あ、スミマセン…!」
なんてことのない前半のギミックでミスがあったらしい。
立ち上がりはギミックを”思い出す”過程を挟むからつまづくことは仕方ない。野良でも固定でも、今までしてきた攻略で当然にあったことだ。
どうあってもスキル回しを最適化する練習にもなるし、自分のできることに集中するだけだ。
うん。しょうがない。
でも、そのミスがなかったらもっと先を見られるのにな。
会話に気を取られてなければ、ミスもなかったかもしれないのにな。
足りない時間を注ぐからこそ、楽しい時間を味わいたい。
自分の取り組みが積み重なっていく毎に、仲間への要求も高くなっていく。
過去の攻略経験も、自分もミスも、攻略が進まないときの心の置き方さえ棚に上げて、仲間のミスに思考を向ける。
楽しいブラインド攻略が、負担に変わっていく。
Mass Panic
攻略を終えて、布団にもぐって目を瞑る。
寒さもそろそろ峠のはずなのにまだ随分と冷える。
何も考えないようにしようと思うのに、思考が重くなる。地獄に引きずり込むために伸ばされた叫びのような手みたいに、まとわりついて離れない。
自分を大切にしようと思った。
でも僕がいま幸せなのか不満を感じているのかわからない。
この歳になれば、もう”昔”と表現できるのだろうか。
努力することが、最低条件だった。頑張ることは当たり前。
できないことなら、努力してできるようになる。
できることでも、努力して上達する。
合格点を取って満足するのではなく、満点を目指す。
小さい頃、「常に上を見続けなさい」と、誰かが僕に言って聞かせた。
それが当たり前だったし、ただ楽しむって正直よくわからない。
布団が体温で温まっていく毎に、僕の思考も熱を帯びていくみたいだった。
「給料って、我慢料だから。」
ああ、連想ゲームを始めないでくれと思うのに止められない。
大人になって、弱音や迷いを口にすることもできなくなった。
誰かの善意が、僕の首を愛でるようになぞってからきつく締めていく。
あなたたちの人生のことについて何も言わないから、僕の人生のことは放っておいてほしい。
全てを解ったような顔で語るあなたたちは、たぶん僕の気持ちだけは解らないから、せめて悪者でいてほしいよ。優しい思い出が愛しさとともに僕をおしつぶして、つらい過去は憎悪をまきちらしながら心を縛る。
こんな日は夜が長い。
時計の秒針が駄菓子を取るクレーンゲームみたいに、思考を僕の外へ押し出してくれたらいいのに。
Memento Mori Carpe Diem
鬱々とした感情と自身への疑問を処理できないままに日々をめくっていると、大学時代の友人に子供ができたとのことで、ソフィアと3人で集まることになった。
何を隠そう大学時代の友人も元ヒカセンだ。
酒を酌み交わし、話に花を咲かせる。
大学生だった時分、夜遅くまでゲームをして遊んだ。手分けしてレポートをして、ともに海外へも行って、喧嘩もして、励まし合い、けなし合い、笑いあった。苦楽を共にしたんだ。
楽な事ばかりではなかったけれど、本当に楽しかった。
そんな僕の数少ない親友が、結婚をして、新居を構え、そして子どもが生まれる。
もう、あれほど楽しかった時間は戻らないんだなと思った。
そしてあと何回、こんな時間が残されているんだろうとも思った。
帰りの電車、ソフィアと2人になりガラガラの電車の椅子に腰掛ける。
糸雨が電車の窓をかすめて水滴になっていく。
「ソフィアはなんでブラインド攻略続けてんの?」
そういえばというように、何の前置きもなく僕から切り出した。
取り方によっては嫌味に聞こえるかもしれないけれど、そんなことを気にしなければならない仲ではないから楽だ。
「ん~部活みたいで皆でわちゃつけるからじゃねえかな。」
付け加えるなら、「分かんないけど」だろう。
自分の心を探りながら出したような答えがかえってくる。
「そっか。楽しいってこと?」
念のため確認するみたいに僕が続けた。
「うんwギミックは解けないけど解かなくていいのが気楽w」
「なんじゃそりゃwまあ実は俺もギミックはわからんw」
部活ってただ楽しいからやっていいものだったのか。
毎日、毎回、上達しなければならないものではないのか。
自分が始めた会話のくせに、そんなことをぼんやり考えながら、そのあとをうわの空で交わした。
数駅が過ぎて、ソフィアとも別れ、ひとりになる。
楽しいからただやっていたことは、たぶんゲームだろう。
でも、楽しい反面、現実を忘れるために逃げるようにやっていたようにも思う。
そんなこともわからないで、昔みたいに仮想世界に没頭できていたら幸せだったのかもしれない。
今はゲームすら負担にしている。
きっと僕は何かを負担にせずにはいられない性質で、そういう病なんだろう。
決して届かない理想を掲げて、追いかけている格好をしていることが、僕の奥底には救いとなって存在していて、同時にいつまでも変わらない暗闇になっている。
何かの顔色を伺いながら生きてきたということなんだろうか。
わからなくて、そしてこわい。
自分のしてきた努力が、実はただ自分を守るためにとっていた格好だったと理解し、受け入れることが。努力しないことで壊れてしまう自分の何かが。責められることも傷つくことも、仲間から失望されてしまうのも。
親友の幸せを祝った余韻に浸る間もなく、自分のことばかり考える自分がひどく卑しく思える。
青く幼い僕の思考が、輪波みたいに重なり連ねて、今の僕を追い越していった。
掬い
ソフィアと別れた数日後。
入浴が済んでPCの電源を入れる。
攻略も佳境に差し掛かってきた。
固定までまだ少し時間がある。復習は、しなかった。
自分へのあきらめがあって、仲間への信頼があった。
越える力のあるFF14の世界で、死の恐怖を感じるとするならば、それは仲間から見捨てられてしまった時だろう。
自分がミスを連発し足手まといになると、なぜか仲間のことがよく見えた。
しのださんの心許なかった背中はずいぶんと逞しくなって、ギミックのコールもするくらいだ。もう立派に当固定フロントの一翼を担っている。
そんなことを考えていると早速、紹介フェーズでうづきさんを戦闘不能にする。
すぐに大丈夫と言い聞かせる。うづきさんは変わらず皆をまとめてくれているけれど、より攻略を楽しんでいるように見える。
そしてまたミスをした。
見えているよと言わんばかりに、被弾と同時にテトラグラマトンと生命活性法が差し込まれた。
「ありがとう。」と心でつぶやく。ミスがあって黙っていても、何も言わずに赦しを与えてくれる。
ばぶさんとみづきさんのヒーラー双璧は、変わらずギミック攻略で皆を引っ張ってくれているけれど、前よりもずっとみんなの提案を引き出す余白と信頼を持っているように感じる。
続いてフェーズ移行の全体攻撃、牽制も忘れたなと思っているとバーストになってソウルボイスとシアリングライトが光り響く。カイゲさんとソフィアの遠隔組みは変わらず明るいけれど、提案や自分の状況を発言する回数が多くなったと思う。
さらに、円範囲処理のギミック、みどさんに範囲を重ねないようにフィールド端へ移動したら、勢い余って落下死した。みどさんは侍になって、叫び声が増えた。
攻略は進まなかった。
僕のミスが目立ったのに、ミスの回数に反して不思議と僕の心は軽くなった。
挨拶をして、通話を終え、PCの電源を落とすと、いつも通りの習慣に戻り布団に入る。
心が軽くなったせいなのか、仰向けが落ち着かなかった。
“ギミックを処理する記号”
僕はそんな風に仲間を見ていたのだろうか。画面の向こうには人がいて、通話もしてるのにそんなことさえ棚に上げてしまったのだろうか。
今日見た仲間はどうだった?
みんな楽しんでるけど真剣で一生懸命だ。変化している。これだって努力で上達じゃないか。間違いなくギミックをこなしていくことだけが成長の尺度じゃない。
僕はいつから、楽しんで何かをすることと真剣にやらないことを結び付けていたんだろう。自分の思う努力だけでしか人の長所を見れなくなったのだろう。
改めて仲間を見た僕はそんなことを思った。
いつまでも、僕は僕のままで
いつもの散歩道。歩きなれた道。つまらない道。
この退屈でつまらない道をどうやって歩くかは僕の心次第だ。
そうやって割り切って前向きに生きていけたら…、きっとそれが僕の理想の超える力なんだろう。
僕を導く翼が羽を広げているのに、僕の心は羽ばたかなかった。理解していても、仲間が僕を掬い上げてくれても、だから今日から前向きに明るくってことにはならない。
極永遠の闇ブラインド攻略を終えた翌日も、習慣通り散歩に出る。
道すがら、立ち止まって、少し枯れた黄色い花を見遣る。
日陰が好きなのに、日の光もないと生きていけない不器用な花。
もう少し毒があれば、その毒で身を守れたかもしれないのに。
幸せって、なんだろうね。
どんよりと曇った寒空の下、僕らしく発動した超える力を愛でながら、今日も歩き出す。




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