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【FF14ファンフェス2026】漆黒の過去と出会い【吉Pへの道】

エッセイ/日記(日常譚)

空のバスタブの中で、目を覚ます。
僕は力の抜けた体育座りで、傷と水垢だらけのバスタブにもたれかかっていた。

シャワーから垂れるように流れる温ぬるい水が、肩に当たる。
セメントでも詰められたのではないかという程に、頭が重たい。
身体を動かそうとすると、錆付いた自転車のチェーンのように体がガリガリと悲鳴をあげた。
自分の状況を飲み込めない。思考力そのものを制限されているみたいだ。

跳ねた飛沫しぶきが顔に当たってうざったい。
錆で固まった体が壊れてしまわないように、僕は慎重に腕を動かして手で顔を拭った。
風呂で寝てしまったんだろうか。それにしても頭痛が酷ひどい。
脳ミソがクラッシュしたゼリーみたいで、少しでも動かしたら耳の穴から零こぼれそうだ。
重い頭からゼリーを零さないように、慎重に首を動かして水の流れに沿って自分の身体を見下ろす。

水でピッタリと貼り付いたボクサーパンツ一枚。
どうやら裸ではないらしい。
久しぶりにプレイするゲームの操作感を思い出すように体を動かして、周りを見る。
換気用の小窓は所々にカビが生え、縁ふちには水垢を蓄たくわえたミントグリーンのボトルが並ぶ。
バスタブと洗い場の境界線の壁に洗面台が据え付けられ、昭和めいたゴツい蛇口がくたびれている。

見覚えのない風呂だ。
わけがわからない。

昨晩の記憶を探ろうとすると、僕の頭はそれを拒否するように暴れた。
ズキズキとする痛みは、子供が駄々だだをこねるように頑固だった。
バスタブの縁を掴んで、頭の中の子供の機嫌を伺いながら立ち上がる。
一度癇癪かんしゃくを起こしたら、手が付けられなくなりそうだ。これ以上暴れるのは勘弁してほしい。

ゴツい蛇口を少し捻って、シャワーの温度を上げる。
温かさに触れるだけで緊張の糸が一つ解れるのを感じたが、次の瞬間にはズキリと脳が跳ねた。
頭の中の子供の気には、障ったらしい。
僕は窓の縁にあるボトルをワンプッシュして、シャンプーを手に取った。
何もわからないが、ここがどこであれ、風呂にいるということは風呂に入れという事なんだろう。
僕は考えることを放棄ほうきして、体を洗い始めるのだった。

黒歴史

さて。
これを読んで下さっている方の中で、こんなサスペンス的な体験をしたことがある方はいるだろうか。

目が覚めるとバスタブでひとり座っており、シャワーからの水に打たれている。
こんな状況は事件の香りがする。
これがもし人里離れた真冬の山荘であれば、名探偵は必須だったであろう。
安心して頂きたいのは、事件に巻き込まれたわけではないということだ。

これは、僕の”黒歴史”というもののひとつになるとは思うのだが、冒頭で書いた通り僕には記憶がない。
全くないわけではないのだが、正直今でも自分が体験したという実感がないので、1%くらいはまだネタバラシのされていないドッキリなのではないかと思っている。

今は昔、男子大学生の所業である故、見苦しい事この上ないであろうから、品性に欠けた(もしくは全くない)ことに耐性の無い方は、ここまで読んでおいて頂いて申し訳ないが、ブラウザバックして頂きたい。
あるいは、フィクションの類たぐいだと思って読んで頂きたい。
周囲の証言を切り貼りした内容と、僕の朧げな記憶を辿ったものなので、フィクションといえよう。
どうか笑って読んで頂きたい。

そんなわけで、誰にでも一つくらいはある黒歴史のひとつを披露したいと思う。

出会い

この黒歴史を説明するためには、少し時間を遡ってK(以下、ケイ)との出会いから説明させて頂く。

ケイとの出会いは大学のガイダンスだった。
入学式が終わり、学内で初めての行事だ。
体育館に並べられたパイプ椅子。中前列、中央寄りの通路側。
一張羅いっちょうらを着込んで髪型をバッチリ整えた僕は、早めに会場に着いた。
荷物を邪魔にならないようにパイプ椅子の下に置いて、お花を摘みトイレに行っておく。
トイレには僕と同じような考えの人々がいて、少し混雑していたので少し時間が掛かった。

席に戻ると、僕の荷物が置いてあるパイプ椅子には人が座っていた。
席を取っておきたいなら、椅子の上に荷物を置いておくべきだったか。
僕は携帯をイジる振りをしながら、座っている人を盗み見た。
くたびれたジャージに汚いサンダルは、見るからにダルそうな田舎のやんちゃな小僧である。
まるっきり輩だ。
なるほど、ガイダンスにこんな格好で来る発想があったのか。

今でいう陽キャの括りになるのだろうか。
一人でダルそうに座った表情は露骨に退屈そうで、今にもハナクソでもほじくり出しそうであった。
僕がこんな怖そうな輩と関わることは、一切ないだろう。
Fランクと括られる大学だが、勉学に励みサークルに入り、バイトなんかして彼女でも出来れば夢に描く大学生活そのものである。

僕は座ったままの所謂ヤンキーを、刺激しないようにした。
視界に入らないように斜め後ろに回る。
恐る恐る、荷物を静かにパイプ椅子の下から慎重に抜き取る僕はスパイにでもなった気分だった。

幸いヤンキーに気付かれることもなく、僕は鞄を取り返し、他の席へ移った。
実はこのヤンキーがケイである。
映画であれば、ここで衝撃の出会いでもありそうなものだが、現実はこんなものだ。

偶然にも、ヤンキーと同じ学部、同じ学科、同じクラスだった。
そしてケイとは履修した授業もほとんど同じであった。
顔見知りになり、挨拶を交わすようになり、隣の席に座るようになった。
そのうち彼はくだらない落書きを見せてくれるようになり、僕はいつも反応に困った。

そのくだらない落書きというのが、辮髪べんぱつのむちむちの男の顔であった。
サモ・ハン・キンポーさんを辮髪にしたような感じだが、人相はずいぶん悪い。
怒りマークがおでこに何個かちりばめられており、目はギンギンに見開かれギラギラとしていた。
そのくせ眉はハの字で困り顔。
こんな落書きを見せられて、困っているのはこっちである。
月日は流れ、人見知りの僕はいつの間にかサークルに誘われ、ともに球蹴りをしていた。
辮髪男には体が描かれるようになっていた。

そして社交的なケイを通じて、ケイ宅の近所に住む同じクラスの二人とも仲良くなった。
Z(以下、ゼン)とH(以下、ヒロ)を加えて、僕の大学時代の大半を共に過ごすことになる四人組が出来上がったのであった。
ゼンとヒロは既に仲が良く、出身は違うがラガーマン同士で通じるものがあったらしい。
ゼンは骨太でウエイトもバリバリこなす、見るからにパワータイプ。
一言で言えば前線を支えるザ・ラガーマンだ。
ヒロはラガーマンのイメージとしては細身だが、ウイングをこなす俊足タイプだ。

この悪友たちのせいで、僕は勉学に励むことはなかった。(父、母、すみません。)
そして当然(?)、彼女ができるわけもなく、夢見た大学生活とはだいぶ違う大学生活を送ることになるのだった。

若気のなんとやら

大学生は若かった。
自分の何かを主張するためにお酒を飲むのである。
そして、大学生は愚かだった。
明日の事など考えられないのである。

この日、貧乏学生である僕は、安さだけに全振りした(アルコールランプの中身)酒を購入しケイの家に向かった。
授業中、今日は遊びながら酒でも飲もうと悪だくみをしていたのだ。

ケイの住むボロアパートに到着し、四人で集まった僕らの目はギラついていた。
お酒が解禁になって、無駄に酒が強いアピールをしたい年頃なのである。
酒を飲んで二日酔いの頭痛の中で次の日を過ごすことを、ステータスとしていたのだ。
今思えば本当にどうでもいいし、もしステータスというのならデバフといえよう。
そんなわけで、若く愚かな男子大学生四人は、落書きの辮髪男も引く程にギンギンにギラついていたのである。

他愛ないカードゲームに始まり、NGワードゲーム、麻雀。
NGワードゲームというのは、自分の隣の人が言いそうな言葉を紙に書く。そして隣の人が見ないようにおでこにその紙を貼る。隣の人がその言葉を言ったら負けというゲームである。

例を挙げてみるとこんな感じだ。
ゼンが僕の紙に”そういえば”とNGワードを書いたとする。
隣に座る僕は目を瞑って、その紙をおでこに貼ってもらう。
僕が誰かを貶おとしめめようと話題を振るために、”そういえば”と口にしたらアウトといった具合だ。

当然四人全員のおでこに、それぞれが決めた紙を貼るから、駆け引きが生まれるのである。
ゲームで負けたら飲む、NGワードを言ったら飲む、粗相をしたら飲む。
NGワードゲームをしながらカードゲームをして一気にペースが上がる。
果ては自分から飲む始末。

ゼンと僕がふざける担当。
ケイとヒロがツッコミ、時々、狼狽うろたえる担当になっていた。
もはやチキンレースになっており、酔いが回って誰も止める人間がいない。

NGワードゲームと麻雀がセットになった頃。
僕の麻雀牌マージャンパイを持つ手が、だいぶ怪しい。

コーヒーカップのアトラクションに興じているみたいに、部屋がぐるぐる回っている。
ソウズ達に足が生え、牌から飛び出して卓を暴れまわっている。

さっきまで、あんなにふざけていたゼンが一瞬静かになった。
ケイとヒロが顔を見合わせた次の瞬間、木の実をパンパンに詰め込んだリスの頬袋ほおぶくろの如ごとくゼンの口が膨らんだ。
世界がスローモーションになり、二人がゴミ箱を持ち出す前に決壊した。
ダムの決壊は始まりの合図だった。
彼の名誉のために言っておくが、ゼンは普段、四人の中で一番しっかりしている。
文武両道であるし、義理堅く責任感が強い。
職人気質でこだわりはあるが、明るく社交的な人間である。

ゼンが偉いのは、放流物ほうりゅうぶつを手で受け止めて麻雀マットの上で留めたところだった。
ケイは慌てふためき、ヒロは爆笑し、僕はニコニコとする(バカみたいに微笑むだけの)置物になっていた。
ケイはゴミ箱やティッシュで放流物を必死に処理した。
彼の努力虚しく麻雀マットに麻雀牌は汚れ、カーペットにまで及んだ。
しかし、ゼンの面倒も見なければならない。
ゼンの罪はラガーマンであり、パワー系であったことだ。
力の入っていない人間というのは相当に重い、ウエイトトレーニングをするラガーマンであれば尚更だ。長所が仇となったのである。
(逃げ出そう)帰ろうとするヒロを引き留めたケイは、二人でなんとかゼンを動かし介抱かいほうした。

一息ついて、二人は絶望した。

置物になっていたはずの僕は、横になってうずくまりいつの間にか決壊させていた放流物にまみれていた。(汚い。)
このとき僕は夏にも関わらず
「寒い……。寒い……」
と言っており、ケイは僕を見て
「あ、死ぬんだ……」
と思ったらしい。
信じられない状況になりすぎると人は笑ってしまうことがあるらしく、ヒロはまた笑い出した。

僕の偉いところは、静かなところだった。
きっとゼンと二人同じタイミングで共にダムを決壊させていたら、ヒロは逃げ出しケイは絶望の中で世を恨み人を憎んだことだろう。
僕の罪は記憶を失くしたことだ。
今になって文章にしてみると、改めてどうしようもない奴である。
どう考えても悪い事しかしていない。
先に書いた通り、未いまだに自分が悪いことをした実感はなく、大変だったと話すケイを見てニヤニヤしているのであるから性質たちが悪い。

これを機に、僕は四人組のクズ担当に就任することとなる。
ちなみに他の三人は、ゴミとカスとゲスらしいので、似た者同士が集まるべくして集まったと言えよう。

俊足を発揮し再び帰ろうとするヒロを、ケイは鬼気きき迫せまる形相ぎょうそうで引き留めた。
彼の名誉のために言っておこう。ヒロは普段、和を重んじる人間である。
必要であればリーダーシップを発揮するし、聞き役になるべき時には聞き役に徹することができる。
たまに間の抜けたこともするが、そんな時は素直に謝ることができる気持ちのいい人間である。

二人は僕の汚れた服を脱がして、バスタブに押し込んだ。
そして僕が寒さに抗えるように、温かいシャワーを流したのであった。

ヒロはゼンの様子を見守った。
ケイは僕を放っておくこともできず、後処理をしながら救急対応がいつでもできるように朝方落ち着くまで様子を見てくれていた。
念のために言っておくと、僕が今笑い話にできたのは運が良く、友に恵まれていただけだ。
もしかしたら、ここで僕は星海へ還っていたかもしれない。
絶対にマネしないで頂きたい。

そして朝。冒頭へ繋がるのである。
僕は温かいシャワーを浴びてもサッパリしたなんてことはなく、頭痛と戦っていた。
まだ訳は分かっていなかった。
しかし、風呂から出ると、自分の吐く息がアルコール臭かった。
まるで自分自身が、注射前に消毒する時のアルコール綿にでもなってしまったみたいだった。

記憶がない、そしてアルコール臭い息。解除できないデバフの数々。きっとモルボルのくさい息はアルコール分も多めだろうと思った。僕はこんなデバフを喰らったら戦えないどころか、武器すら構えられない。

ぼんやりとケイの家で集まって、遊んでいたような気がする。
きっとお酒でなんかあったんだろうな。
名探偵である僕には、簡単すぎる推理だった。
風呂場の外には、タオルとケイのヤンキージャージ用意してあった。
もたもたとジャージを着て部屋に戻ると三人が気持ちよさそうに寝ている。

僕の頭はこんなにも痛いのに、気持ちよさそうにグースカ寝やがってと腹が立った。
介抱してくれ、助けてくれた人間に腹を立てるとは中々クズである。

一番暢気のんきそうなヒロを起こすと、ヒロは
「昨日は酷ひどかった」
と言った。

何があったか聞いても
「俺の口からは言えない」
としか言わなかった。

疲労の残る苦笑いの後に
「とりあえず俺が送っていくことになっているから」
と、簡単に説明し、財布と携帯をポケットに突っ込んだヒロは帰路を共にしてくれた。

ヨボヨボと歩く僕を、先を行くヒロが時々振り返っては苦笑いして立ち止まる。
老犬の散歩のような光景だっただろう。

この日は当然のように自主休校し、次の日学校で合流した。

僕は到底とうてい信じられなかったが、ゼンの申し訳なさそうな顔と、ケイとヒロの本当に大変そうだったという表情を見たら、納得せざるを得なかった。

週末、ゼンと僕で新しいカーペットを買いに行き、ケイに謝罪した。
ケイはカーペットが新しくなったと喜んでくれた。
ヒロはもう酒は飲むなと笑った。

漆黒の歴史

なぜ今こんなことを書いているかというと、ケイとは今も交流があり彼もまたヒカセンだからである。
仕事が忙しいようで、中々ログインする機会が少ないが、共にファンフェスを楽しむ予定だ。

こんな出来事があってなお、彼は友達でいてくれる。
僕だったらこんな出来事を、中々笑い話にはできない。

勉学に励むこともなく、女っ気のない大学生活であったが、僕は人生で大切な何かを手に入れたのだ。
彼のお陰で僕は大学生活を謳歌おうかし、今なお輝きを放つ記憶となって心に残っている。
黒歴史と言うものは、多かれ少なかれ誰にでもあるものだ。
それは、この世の真理である。
しかし、黒い歴史も笑い話にできれば漆塗りの美しさを纏まとう、漆黒の歴史になるのではないだろうか。

明日、ゼンとケイに会う。
三人で集まって、映画を見るのである。
ゼンもかつてヒカセンであった。
ヒロとはあまり会わないが、重要なことがあった折には報告してくれた。
おじさんになっても、やってることはあの頃とさほど変わらない。

ずっとこれが続けばいいと思うが、おじさんになった分だけあと何回こんな機会が残されているのだろうとも考えてしまう。

有難い。

今さらありがとうなんて、直接言うのは照れくさい。
いやしかし、感情という目に見えないものを文章にしたり、口にすることは、心の折り目を付ける上で僕にとっては大切なのだ。
今伝えておかなかったらきっといつか、後悔するだろう。

だから明日は、ちゃんと伝えてみようと思う。
ありきたりで飾りのない言葉を、偽りのない感謝という気持ちを込めて、伝えてみようと思う。

エッセイ/日記(日常譚)
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