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【大阪一人旅】緩和の緊張【part 7】

エッセイ/日記(日常譚)

Eさんオススメのラーメン屋にて最終日が始まった。

オススメのラーメン屋とは、ラーメン荘 歴史を刻め 日本橋店さんである。

知っている……!
というかアルゴリズムを分析され動画をオススメされまくっていた……!
何を隠そう僕は麺類大好きなのである。

僕は毎日麺でも構わないくらいには麺類が好きだ。
とりわけラーメンの好きな所は、職人のこだわりが一杯の丼に詰まっているところである。
無論、職人のこだわりが込められているものはラーメンだけではないが、スープ、麺、トッピングといった佇まい。テーブル調味料で自分の好みを追及したり、気分次第でいつもとは違う楽しみ方ができるのも嬉しい。そして何より贅沢なのにリーズナブルで手が届きやすい、庶民の味方なのが好きだ。

昨晩の帰り道、Eさんオススメのラーメン屋に連れて行ってくださいとお願いしたら間違いなく歴史を刻むべきということだったので、ホテルに戻った僕は早速動画にてコールを予習した。
麺は200g、コールはにんにく有り、野菜マシ。
初めてはなるべく基本を味わいたいが、少しのマシも体験したいという目論見もくろみである。

そして迎えた翌日。
当然のように今日も寝坊はしたが、寝坊することを見越して昨晩の内に荷物などの整理をしてきたのである。
学んでいる……!
そしてコールの素振りは余念よねんなくしてきた。
いつ、どこで、だれに、にんにく入れますか?と聞かれても、にんにく有り野菜マシで!と答えられる。

Eさんの作戦により集合が9時50分ということで、余裕を持って到着。
店にはもう折り返し地点まで列ができている。ちなみに11時OPENである。
ファンの方々に圧倒されつつも、代表待ち(同じグループ内の人が代表して並んで置くこと)は禁止なのでトイレと飲み物を買いがてらコンビニへ。

お手洗いを借りてブラックコーヒーを手に取りレジ待ちをしていると、ベージュのチョッキを身に着け、日に焼けたおっちゃん二人が店に入ってきた。おじさんではなく、おっちゃんである。
入って来るや否や、そのおっちゃんの一人が言った。

「俺、絶対砕けてると思うねん」

ほう……。何が……?
結構な声だったので聞こえてしまった。
そして、砕けるって普段生活していてあまり使わないよな?と思い、気になったのである。

もう一人のおっちゃんは聞こえているハズなのに返事をしない。
同じ色のチョッキを二人一組のおっちゃんが並んで着ているのは、少しインパクトがある。
体育の準備運動はこのチョッキのまま二人でペアになってくれないだろうか。
背中を伸ばす体操で担ぎ合って欲しい。
チョッキの前をヒラヒラさせているおっちゃんと、ピッタリ閉じているおっちゃん。
そこで個性を出すんだ……。
喋っているのは当然ヒラヒラのおっちゃんで、付かず離れずの距離を保ったまま店の奥へ。

レジが空き会計を進める中、おっちゃんの声は店中に響いていた。
「でな、俺電話かけて言うたったんよ。だから俺言うたやろ、砕けてるって」

気になる……。
そんなに砕けてることなんてあるかね、と思いつつも、会計が済んだ僕は店を出た。
ブロガーとしては失格である。
オチが待っていそうなこの状況を見過ごしてしまうのは心苦しかったが、待ち合わせ時間と歴史を刻むことを優先したのである。性格的には難しいかもしれないが、いつか「何が砕けてるんですか?」と聞けるようになりたいものである。

不完全燃焼のままEさんと合流して、歴史を刻め 日本橋店へ並ぶ。
この頃には折り返しから看板がある辺りまで列が伸びていた。

Eさんの予想だと1時間待ち位で入れそうとのことで、実際に店に入れたのが12時頃。
Eさんの予想はピッタリだった。

朝のお礼と案内、麺量を聞く時のやりとりなどが丁寧で親切であった。人気店には味以外にも、もてなし力というのか、ホスピタリティというのか、来てもらったからには喜んで欲しいという精神がある気がする。

麺量を200gにする予定であったが、Eさんのススメと、お店の方の折角来てくれたならお腹いっぱいになって欲しいとの言葉に感動して、300gにした。

ルールに従い、入店し、素振り通り、にんにく有り・野菜マシにてコール。
店内は結構なボリュームのBGMが流れており、大きい声を出すのは緊張したが、無事にコール出来て嬉しかった。
僕は隣に座るEさんに、にやりとドヤ顔を決めて、Eさんはそれを微笑んで認め、自身のコールを響かせた。
ちなみに初めての方はこの”ルール”なるものに敷居しきいの高さを感じると思うが、事前の案内が丁寧で親切なので、日本語が分かりよほど横柄おうへいなことをしなければコールに失敗したとしても確認してくれたりしそうだなと感じた。

味は大変に美味しかった。
美味しさのあまりもっと食べれそうではあった。
しかし途中、外で麺量を聞いてきた副店長さんとスタッフさんのやりとりが印象に残った。

「○○!(スタッフさんのお名前)スイッチ!」
状況確認をした副店長さんがカウンターの中で急に言い出した。
「え、俺アスナちゃん?」
とスタッフさんが若干戸惑い、そして少し嬉しそうに聞くと、副店長は返す刀ならぬ返すレイピアで言った。
「いや、俺がアスナちゃん」

ちなみにこのお二人は、厨房に立つ男なだけあってガタイが良い。
腕・肩周りの筋肉がガッチリとした感じの、気は優しいけど力持ちタイプ(女々しいおじさんである僕視点)である。

いいな~この感じ。
自然体で仕事を楽しみ、面白がりながら、自分を犠牲にすることなく他者を喜ばせられる環境。
このやり取りを聞いて怒る人がいない。ラーメンが当然美味しい、スタッフさんが親切で半歩近い。
店の作る楽しい空気と、地域に感謝する姿勢が人気店たる理由な気がした。

お腹と感情を一杯にして、Eさんに周辺を案内してもらう。

通天閣、飛田新地、西成と歩いた。

途中、スーパー玉出に行ってみたいというわがままに付き合ってもらった。
昨日から度々目を引く看板に、興味をそそられていたのだ。

玉出の入り口に差し掛かった瞬間、事件は起こった。
自動ドアが開きでてきたおっちゃんが、缶チューハイの氷結片手に出てきたのである。
ちなみに朝のおっちゃんとは別人だ。僕はそこまで持っているブロガーではない。
そしてドアを出ると、設置してあったゴミ箱にロング缶のストゼロをポイと捨て、去って行った。

僕は-196℃に凍り付いた。
千歩譲って、ここでタブ開けて飲み始めるなら分かる。(ちなみに13時過ぎである)

ここで飲み終わるってどういうこと?
飲みながら買い物してたの?
買って飲みながら袋詰めしてたってこと?

頭を疑問が埋め尽くすと、逆に奇妙な冷静さを取り戻してEさんを見る。
すると目が合い、Eさんは悟った笑顔で「西成ですからね」と言った。

僕は滅多にない体験ができ、大阪に来てよかったと思った。

その後、さらにEさんの案内で大阪城を見て、次の目的地へ。

大阪港駅でSさんと合流し、海遊館かいゆうかんへ向かう。

海遊館といえばジンベエザメであるが、僕の中では実写映画、『ジョゼと虎と魚たち』である。
田辺聖子さんの短編小説の映画化作品で、小説も映画もどちらもあっという間に好きになった。
ジョゼに限ったことではないけれど、田辺聖子さんの書く関西の女性は、どうしてこうも魅力的なのだろうか。
映画では、若い向こう見ずさと人間のこころの、希望とか、勝手とか、愛しさとか、諦めみたいなものが胸に残響と余韻を残す作品だった。

31サーティーワンで待ち時間を潰し、並ぶこともなく入場。

夕方の海遊館は動物たちが草臥くたびれていて、ひっくり返って寝ている姿が愛らしい。
日中の元気な姿も当然いいけど、こういう味わいも中々できない。
ゆっくり周って海遊館を満喫。
そして日も暮れて、大阪での最後の晩餐ばんさんをどうするか話していた。

僕は最終日の予定を全く決めていなかった。
自分が絶対に行きたいところは初めから日程に組んでいたし(AIが)、予定通りに観光地を周ることが目的になってしまって楽しむことを疎おろそかにするのが嫌だったからである。

SさんとEさんは、準備段階から「どこいきたいですか?」と頻しきりに僕に聞いてくれたが、僕はその度「どこに……、はて……、特にっすね」っという具合でのらりくらりと二人を困らせるような返答をしてしまっていた。

今冷静に考えれば、観光するお前が要望をハッキリ伝えろやと自分にツッコミたい気分である。
自分の住む街の観光案内って結構難しい。だから二人は、相当に困ったであろう。
にもかかわらずこの三日間、何とか僕を喜ばせようと悩み考え、色々と僕を案内し連れて行ってくれた。

バスの時間に間に合えばなんでもよかった。どうしたって楽しめると思っていたから。
とはいえザックリとした場所しかわからないので、多少の余裕をもってバスターミナル周辺には居ようとぼんやり思っていた。
一言でいってしまえば、自分のことを何も決めていなかったのである。

いつまでも自分の意見のない僕に提案してくれる意見が、ここで割れてしまった。
夜ご飯で並んだりしたら、時間が心配になるから余裕をもって到着しておいた方が良いのではというSさんの意見。
時間的な余裕は十分にあるから夜ご飯も美味しいものを楽しんでもらおうというEさんの意見である。

「十分に余裕をもって場所も提案してます」

Eさんの放った言葉には、怒気どきが含まれていた。

エッセイ/日記(日常譚)
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