バケツをひっくり返したような土砂降りの中、僕は一人バスターミナルで夜行バスを待っていた。
僕は一人旅をしたことがない。
合宿や家族旅行、大学の時分のいくつかの貧乏旅行では、ありがたいことに友人が準備を全てやってくれたので、僕はお金を払って誰かに付いて行くだけで良かった。
そう。僕は末っ子なのである。
誰かの前を歩くより後ろを歩く方が落ち着くし、わがままを聞くよりは言う方が得意なのだ。
末っ子のプロであり、出不精でもある僕が一人旅をしようと思ったのには、いくつかの理由がある。
実に十四年ぶりとなるフェルメール作の絵画、『真珠の耳飾りの少女』が大阪の中之島美術館で公開されるツイートを目にしたことが、今回の旅の発端ともいえよう。
僕が死ぬまでに見たいと思う絵画のひとつである。
真珠の耳飾りの少女から会いに来てくれるというのであれば、行かない手はないだろう。
まごついたものの何とかチケットを購入。
幸いにも、日時指定の抽選が通りチケットが手に入ったのだ。
シルバーウィークの手前第二回期。当選日を中心に休みを合わせて2泊3日の旅程である。
旅程を決め切れないので、AIにわがままを言うだけ言って予定を組んでもらった。
ホテルの予約は、日程を間違えていないかビクビクしながら何度も確認して取った。
エオルゼアでの付き合いが長い、関西在住のヒカセンに声を掛けて、案内をお願いした。
文章にすればたった三行なのに、僕には準備がとてつもなく大変で、信じられないくらいの労力が必要だった。
しかも後から判明したのだが、僕はどうやらいつどこの何を案内してほしいかハッキリと伝えていなかったらしい。コミュニケーションとは難しいものである。
しかし、こういうことは向いていないと分かっただけでも良しとするべきであろう。
自分一人だから、誰かに迷惑をかけることも少ない。
最悪、宿が取れてなくてもネットカフェくらいには入れるシーズンだと思う。
路上で寝ても死ぬことは稀だろう。日本だし。(法律的なものがどうかは不明ではあるが……)
そう考えると急に気楽になって全てが楽しみになってきた。
これはとある36才児が、人生で初めての一人旅をするだけの物語である。
Are you ready?
そして出発日、土砂降りである。
使い古したリュックサックにショルダーバッグという二刀流は、絵にかいたようなおのぼりさんスタイルで、土砂降りのせいで足はびっしょりと濡れている。
バスターミナルには屋根があって、雨が凌げるので助かった。
僕は傘を差すのが下手くそだ。
頑張って傘を差したが、身体も結構濡れた。
濡れはしたものの暑さばかり気にしていた僕は、心配しなくて良さそうだなと暢気なことを思っており気分は良かった。
そしてタオルで鞄や身体を拭いていると、すぐに時間は過ぎて出発時間。
バスが来ない……。
表記が出発時間になっていたので、時間少し前にくるものだと思っていたが、時間丁度になってもバスが来ない。不安になって予約を確認しても、日時も場所も合っている。雨による欠航のお知らせもない。
一応バス会社に連絡してみようかな、なんて思っていると、5分程遅れてバスが到着。
良かったw
雨で少し遅れてるだけだったw
安堵で予約番号も座席番号も吹っ飛んでしまったが、運転手さんが良いお方で落ち着いて確認し乗りこめた。
前から二番目、中央列。
カーテンがひらひらして少し落ち着かない。
いや、落ち着かないのはこれからが楽しみだからだろう。
こうして僕は無事大阪へ向けて出発したのである。
と、ここでカッコ良く出発するだけで終わらないのが僕であった。いや、冷静に見ればカッコいいところが一つも見当たらないが気のせいだろう。
移動の問題はここからだったのだ……。
拭きはしたものの、冷房が効いているので結構寒い。
そして選りにも選って、僕は半袖半ズボンのたんぱんこぞうスタイルなのである。
寝る時は冬以外は大体いつもTPKSだし、土砂降りの中歩いて濡れることを考えると、拭いてサッパリしやすいと思っていたのだ。
夏で寒さが問題になるなど考えもしなかった。
僕がしてきた旅の準備は、その一歩目から踏み外していたようである。
生きるのって中々難しい。
僕は夏の終わりに寒さに凍えながら、ロクに眠れずに約束の地大阪に到着するのであった。
P.S.特定等を配慮し若干事実と違ったことも混ぜてあるので、少し矛盾する場面があるかもしれないが許して頂きたい。
P.S.のP.S.この旅はブログの記事にするつもりはなかったので写真がほとんどありませんw【許してください】


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