【FF14ファンフェス2026】東雲色の光芒と金のピアス【吉Pへの道】

エッセイ/日記(日常譚)

僕には特別な日に付けるピアスがある。
母から受け継がれた、祖父の形見。ピアスポストの曲がった、小さな金のピアスだ。

祖父は僕の生まれる前に亡くなっている。
だから僕の知る祖父は、遺影に映る祖父だけだ。
玄関の前で目を凝らすように眉を寄せた祖父の遺影は、不機嫌そうだった。
怖そうな印象を抱いていたが、母の話の中だけで会う祖父はずっと優しかった。

高校生の頃から、自分に自信が持てない時には形見のピアスを付けて力を貰った。
そして、心の中で小さく祖父にお願いをする。

おじいちゃん。お願い。
今日は大切なことがあるから、少しだけ力を貸して。
ほんの少しでいいから、背中を押して。


始発で向かう海浜幕張駅。
道中の京葉線、電車は僕の背中方向に進む。
窓から見える街並み。
タケノコみたいに背比べしたビル達が、寂しそうに互いの距離を測っている。
少しずつ顔を出す太陽に薄墨色の雲がかかって、世界はまだ眠たげだ。

僕は友との記憶を書いたことで、後悔を引きずっていることを自覚した。
今まで考えないようにしていたというのもあると思うし、どうしても自分の非を認められなかった。
ファンフェスは間違いなく楽しみなのに、明るい曲を流しても気分が上がりきらない。
立ち止まる僕の周りを、ミニオンが付かず離れずで歩き回るように思考が歩き出す。

あの頃の僕がいる。
真っ暗な部屋に、くたくたの真っ黒のスウェット。
心臓が跳ねて、鼓動のギアが一段上がる。
見ていられないのに、自分にかけてやれる言葉も出てこない。

「精一杯悩んで、できることはやったよ」

生気のない瞳、強張った肩。
心の中にいるあの頃の僕は、何かを言われる前に精一杯の弁解をして、藁わらの楯たてを必死に構えていた。

「わかってる。大丈夫だから」

そうだ。過去を責めたいわけではない。

電車が揺れて、川を渡る。

僕は椅子の仕切りに寄りかけていた腰を離して、体を窓側に向けた。
電車の揺れに身体を流されないように、手すりをしっかり掴み直す。
思考が止まらないときは、真上を見る。
こうすると考えることを止められると、教えてもらった。

顔を上げ、オフホワイトの天井を見上げる。
曲がった頸椎けいついに意識が向いて、思考が降りていく。
呼吸して上下する胸へ意識が移り、重心を置くへそから骨盤、かかとに思考が流れていった。
目を閉じて深呼吸をひとつ挟んでから、姿勢を戻して視線を窓の外へ向ける。
凪いだ海の向こうの空には、後光が差して、天使の梯子がかかっていた。


駅でソフィアとカイゲさんの二人と合流すると、自然と気分があがった。

会場に着いて、待機列に並ぶ。
コスプレやグッズを携えた大勢のヒカセン達を見ていると、ファンフェスへ来た実感が湧いてきた。
列が進んで荷物検査を通過。リストバンドを付けて、グッズをもらいステージへと向かう。

会場の座り席はすでにいっぱいだった。
基調講演を直接見たいのは、同じらしい。

通路を歩いてみるものの、内心は諦めていた。
しかしカイゲさんのホークアイのお陰で、運よく丁度三人分の空席を見つけ座ることができた。

ステージ正面、座り席の最後方さいこうほう、メテオエリア。

時間になり、吉田さんが登場する。
ああ、まだ遠いなあ。
手は届かないし、表情も見えない。
でも、画面越しではなく、今は地続きの先に居る。
画面の向こうの世界の人から、同じ世界の上にいる人になった瞬間だった。
僕は基調講演開始3秒で、ファンフェスに来てよかったと思った。

そのままオープニングを鑑賞、メディア向け発表まで終えた頃にはお昼をだいぶ過ぎていた。

昼食の後は、VRチョコボレースへ。
VRゴーグルを着けて、ヘッドフォンを装着する。
チュートリアルを終え、カウントダウンが始まる。
周りを見るために首を振ると、ララフェルがとってもすごく小さい。
サゴリーロードの景色を見ているだけなのに、乾いた砂混じりの風に吹かれているようにさえ錯覚した。

レースが始まる。
手綱を握り、手から魔法を放つと、マッチングしたパーティーの叫び声が聞こえた。
これが……、エオルゼアの世界……!
僕はニヤリと悪だくみな笑顔を浮かべ、夢中で魔法を放った。
ソフィアとカイゲさんで一位と二位を独占。対して僕は五位だった。
ゴール後はパーティー全員で、順位を忘れて花火を打ち上げまくった。

初心者の頃、ピョンピョン飛び跳ねて喜びを伝えたのは僕だけではないハズ。
おぼつかない操作で感謝を伝えていた。
相手もピョンピョン飛び跳ねて、応えてくれる。
それを見てまた嬉しさが爆発して、結局互いにピョンピョンしたものだ。
VRゴーグルを取って、ブースを離れても、僕の心はピョンピョンと飛び跳ねていた。

会場を周ってからのピアノコンサート。
席が空いておらず立ち席での鑑賞となった。

演目が進み、『Flow』。

まさにチョコボ肌。感動で冒険の記憶が蘇よみがえった。
しかし、感動が大きすぎて、あの頃まで勝手に記憶が遡さかのぼる。
上がった感情が、一転して深く冥くらき水底みなそこに墜おちていく。


喧嘩をした次の日、彼はログインしなかった。
僕はそんなことにさえ腹を立てた。
そしてまた次の日、ログインすると彼は既にインしていた。
彼宛にTellのメッセージを打ち込む。

/tell 彼の名前@サーバー名 この間はすまん。

キーボードを打つ指が重かった。散々考えたのに、こんな事しか書けなかった。
Enterキーに中指を置く。

おじいちゃん、お願い。少しだけ背中を押して。
どこへ行くわけでもない、誰と会うわけでもないのに、着けていた金のピアスにお願いをした。

目を瞑つむって、深呼吸をひとつ。
共に重ねた冒険の記憶と、時には刃を交わし戦場を駆け抜けたPvPの記憶。
そして、喧嘩の記憶が僕を巡めぐり交差した。

中指に視線を戻すと、手が震えている。
一度キーボードから手を離して、右手をグーパーすると指先だけが冷たくぎこちなかった。
自分のことが可笑しくなって、僕は自分を嘲あざけった。

冷たくなった中指で、キーボードを叩く。
僕は、BackSpaceキーを叩いて、打ち込んだ文字を残らず消した。
大切な友人に、謝ることができなかったのだ。


これが僕の罪。
この日、互いがその後どうしたか、もう覚えてすらいない。
言い訳はしない。そんな人間だ。

追懐しているのか、過去に囚われているのか、僕にはわからなかった。
音楽で魔法にかけられているとしたら、この時のことをいうのだろう。
止まらない鳥肌だけが、自分がここに居る実感を与えていた。

気が付けばピアノコンサートは、最後の曲。

この胸の痛みは、どこからきて、どこへいくんだろう。

こんな気持ちじゃ、喜びは謳えない。

時間切れだ。

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エッセイ/日記(日常譚)
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